【第1回】 2つのデジタル化−Digitization(デジタイゼーション)とDigitalization(デジタライゼーション)、そしてDigital Transformation
DX(Digital Transformation, デジタルトランスフォーメーション)について調べてみると、2つのデジタル化があることが分かる。Digitization(デジタイゼーション)とDigitalization(デジタライゼーション)だ。これらの違いについて、様々な文献、サイト(例えば、[1],[2])で説明されているが、改めてこれを整理してみる。
Digitization(デジタイゼーション)
Digitization(デジタイゼーション)とは、デジタル技術を活用したアナログからデジタルへの変化のプロセスを指す。例えば、音楽がレコード、カセットテープなどのアナログからCD、 mp3などのデジタルに変換したことがわかりやすい。アナログからデジタルに変換することにより、より高品質なコンテンツを劣化が少なく提供することが可能となる。テレビも2011年にアナログ放送からデジタル放送に完全移行した。アナログ放送と比べデジタル放送では高品質な動画コンテンツを配信することが可能になっただけでなく、限られた電波資源を効率的に利用することが可能になる。紙で提供されていた書籍、書類をデジタル化し、電子書籍、電子ファイルで、蓄積、編集、共有されることも多くなった。
Digitizationで最も変化するものはユーザインタフェース(UI)だ。音楽を聴くプレーヤーもレコードの時代から比べると随分変わった。電子化された書籍、書類はPC、タブレット、スマートフォンで閲覧することになる。このユーザインタフェースの変化は、情報技術の発展とともに我々の生活においても浸透しつつある。
Digitalization(デジタライゼーション)
Digitalization(デジタライゼーション)とは、デジタル技術を活用したモデル、プロセスの変化による新たな価値創出の実現を指す。例えば、音楽はこれまで、レコード、カセットテープ、CDといったコンテンツが収録されたメディアを販売することにより価値創出をしていた。現在では、ダウンロード販売だけでなく、サブスクリプションが主流である。これにより、ユーザは月に決まった料金を払うだけで、大量のコンテンツを選択しながら楽しむことができる。サブスクリプションは、ユーザの再生数を把握することによりコンテンツ供給者に還元することになる。いわゆるシェアリングエコノミーもDigitalizationの最たる例と考えてもよいだろう。カーシェアリングの場合、それぞれの自動車の稼働状況をデジタル化し、サイバー空間で共有することにより、必要なときに空いている自動車を提供するサービスが提供できる。
Digitalizationで最も変化するものはユーザエキスペリエンス(UX)だ。サブスクリプションは、メディアを持ち運ぶことなく、音楽をいつでもどこでも定額聴き放題という体験をユーザに提供することが可能となった。カーシェアリングでは、必要なときに空いている自動車を使うことができるので、自動車の所有という概念がなくなる可能性もある。
Digitalizationによって変化したユーザエキスペリエンスの世界で重要なことは、価値創造をログ(稼働状況のデジタル化)とマッチングすることにより実現している点にある。音楽の場合、ユーザとコンテンツをマッチングすることと、ユーザが実際に視聴したという稼働状況をデジタル化することによってコンテンツ供給者に分配をしている。カーシェアリングの場合は、自動車の稼働状況をデジタル化し、それによりユーザとマッチングすることで、価値創造を実現する。サイバーフィジカルシステムという言葉もあるが、これは全てのものを実世界で完結していたことを、稼働状況のデジタル化により、マッチングをサイバーの世界に任せることになる。そのことにより、実世界をリアルタイムに俯瞰的に効率的に過ごすことが可能となる。
2つのデジタル化とDX
2つのデジタル化によって、DXが実現される世界は、UIの変化、UXの変化を通じた新たな価値創造の世界である。余剰資源をどのように有効活用して、サスティナブルに経済活性化していくかが重要になるが、このような経済活性化はDXにおけるデジタルの力、サイバーフィジカルの相互作用によって実現される。
技術顧問
DXインテグレーションセンター®長
中西崇文
<参考文献>
[1]オルタナティブ・ブログ「【図解】コレ1枚でわかる「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」」,2019年6月26日更新(最終閲覧日:2022年5月9日)
https://blogs.itmedia.co.jp/itsolutionjuku/2019/06/post_720.html
[2]日本経済新聞「守りと攻めのデジタル化」,2017年12月1日更新(最終閲覧日:2022年5月9日)
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO23946840X21C17A1XY0000/